第一章11幕


「エレア! これは何ですか?」
「これはですね」

 城下街に降りて散策をし始めた一行は、一番大きなマーケットに差し掛かっていた。
 シラは目を爛々と輝かせ辺りを見て回り、何か質問があればエレクシアにあれこれと声を掛ける。
 今聞いているのは果物屋の量り売りについての説明だ。シラはエレクシアの言葉を真剣に聞き、頷いている。
 街はいつも通りの賑やかさで活気がいい。
 自分の知識にしようとエレクシアに質問する彼女の姿を見ていると、何度も目にした風景も全く違うものに見える。レインはそんな光景を見ながら腰に挿す刀の柄を撫でた。
 穏やかな時間が流れる。
 シラとエレクシアの会話を聞いていた亭主の老人が、真っ赤に熟れた果実を一つシラに渡してきた。

「嬢ちゃんこの街は初めてかい?」

 シラはニッコリ「はい」と返事をすると、差し出された果実を受け取った。

「今日取れた初物だよ」
「初物?」
「そうだよ。今年のは甘くて美味しい。いいできだ」

 老人の言葉にシラはエレクシアの顔をちらりと見る。エレクシアはシラと目が合うと優しく頷いた。

「いただきます」

 そう言ってシラは袖で果実を軽く拭くと一口かじる。

「んー!」

 途端に声が上がり頬が赤くなる。

「美味しい!」

 満面の笑みに老人も笑う。

「だろう?」
「はい! とっても」

 シラは嬉しそうに話した。
 エレクシアが自分の腰につけている袋から銀貨を渡す。老人はそれを受け取ると近くのカゴから何枚かの銅貨を取り出し、エレクシアの掌へと返した。

「最近はガナイド地区を横断するように大きな経路ができたからね。その先の農業地から新鮮な商品が届くようになったのさ」

 老人は足元の荷物を漁りながら話をする。

「そんなに違いますか?」
「そりゃもちろん。それまではあの辺は危険もあったしね、かなり迂回して運搬していたんだ。今より十日ほど長く時間が掛かることもザラさ」

 老人はシラの質問に答える。

「三年前の討伐戦があった時は少しばかり物流に混乱はあったが、あれがなければ今嬢ちゃんの食べているそれだって、こんなに新鮮には届かなかったよ」

 シラは少し考えるように、その両手の中にある果物を見つめた。

「ワシも昔の戦争経験者だ。戦時中はそりゃひもじい思いをしてきたし、故郷の奴らは徴集されたりもした。戦争なんてまっぴらだ。けどこうやって生活が豊かになるんだから、軍人さんには頭が上がらんよ」
「なるほど……」

 シラは少しトーンを下げて話すと、気を取り直し老人にニッコリと笑い掛けて挨拶をする。

「ありがとうございます。勉強になりました」
「いやいや、この街は大きなマーケットだからね。楽しんでおいで」

 老人もシラに笑い掛け、そう話した。
 話が終わるとエレクシアに背中を押され、シラは歩き出す。ヤマトはシラの少し前を歩き、レインは一番後ろを着いて歩いた。
 シラは歩きながら果実を一口かじり「美味しい」と、もう一度噛みしめるようにつぶやく。

「どこかに座りますか? 歩きながらだと食べにくいでしょう」
「あれ? エレアは食べ歩き反対派?」

 エレクシアの言葉にヤマトが笑う。

「姫様の服を汚すわけにはいかないだろう」
「それだけ? 食べ歩きなんてはしたない! って怒るのかと思った」
「確かにそれもあるが」
「やっぱり」

 エレクシアの言葉にヤマトはフフーンと鼻で笑う。二人の会話は相変わらずだ。

「この先に噴水のある広場があるからそこで休憩しよう」

 ヤマトはそう言うと、シラの足取りを気にしながら進んだ。
 人の歩くスピードも、せわしない話し声も、子供の笑い声も、何もかもが新鮮なシラは大きな目をさらに開きながら周りを見回していた。
 大通りの道を少し歩くといつもの噴水が姿を現す。
 一行は噴水に到着すると、その縁にシラを座らせ右手にヤマト、左手にエレクシア、正面にレインという並びで立った。

「人がたくさんですね。見ていると目が回ります」

 シラはそう言って果実をまた一口かじる。

「そうですね。ここら辺は特に人通りの多い道ですし、店もたくさんありますから」

 エレクシアは腰に手を当て少しリラックスして話した。

「旨いもんもたくさんあるぞ」

 その言葉にレインはヤマトが何を言いたいのかを把握した。

「食べ物ですか?」
「そう! シラはそれ食べてるけど、まだ腹には余裕あるか?」
「それは大丈夫ですが……」
「じゃあ! 決まりだなー」
「何が美味しいんですか?」
「それは食べてからのお楽しみ!」

 ヤマトはそう言って声を上げた。

「お前な、遊びに来てるんじゃないんだぞ」

 エレクシアの少し棘のある声にも動じず、ヤマトは嬉しそうに笑う。

「こいつ、いつもここに来たらそれしか食べないんだよ」

 レインはそんなヤマトを見ながら迷惑そうに言った。
 シラは一瞬レインを見るが、目が合うと逸らされてしまう。そんな彼女の行動にレインの心はまたダメージを受けるのだった。朝の話をまだ引きずっているのだろう。なかなか話をさせてくれない彼女に心が痛む。

「じゃ、レイン四人分ね」
「は?」

 手を四の数字にして出したヤマトの行動に、レインは声を挙げた。

「俺?」
「そりゃそうでしょ? 年下なんだから」

 反論しようと思ったが、確かに自分が一番年下だ。レインはぐっと堪えて溜息を付くと、三人から離れるように歩き出した。
 そしていつもの屋台まで歩くと、顔見知りになったおばさんに四の数字を見せる。

「まいど。あれ? 今日は彼女連れかい?」

 おばさんの言葉にレインは、いやいやと四の数字を横に振り、笑う。

「違う違う」
「そうなのかい? べっぴん二人連れて羨ましいね」
「はは……」

 軽く笑いながら銀貨を二枚おばさんに渡し、香ばしい香りを放っている鉄板を眺めていたレインは、隣の風景がいつもと違うことに気が付く。そこは小物や鏡、化粧道具などをずらりと布の上に並べた雑貨屋だった。オシャレな小物達が昼間の太陽に照らされてキラキラと光っている。
 レインは屋台の肉が焼けるまでの時間、その小物を見つめていた。

「おひとつどうかな?」

 敷物を引いて座っている老婆がこちらに声を掛けてくる。旅商人のような服装に結った白髪、腰の曲がった老婆はレインに微笑み目の前にある小物達を進めてくる。

「ふーん」

 レインは腰を屈めて商品を見つめた。
 ふとその中に一つ気になる物を見付ける。赤とオレンジがグラデーションになっている髪かんざしだ。シラの髪につけると映えるだろうな……なんて考えながら人間の頃、妹の七海にもこうやって髪飾りを買ったことを思い出す。結局その髪飾りは渡せず終いだったが……。

「これ、くれるか?」

 レインがそのかんざしを指さすと、老婆は細い腕を伸ばし、商品を手際よく紙袋へと入れた。レインはそれを受け取りポケットに入れ、代わりに銀貨を老婆に渡す。

「はい、お待ちど! できたよ」

 屋台のおばさんに声を掛けられたレインは立ち上がる。そして目の前に出された四本の肉を両手で受け取った。

「ありがとう」とお礼をいいその場を立ち去ろうとすると、隣の店の老婆がこちらに銅貨を差し出して来た。
「おつり……」

 しかしレインの両手はもうすでに串焼きで塞がってしまっている。

「釣りは取っといてくれ」

 そんな言葉に老婆は深々と頭を下げる。レインはそれを見ると後ろを振り向き、噴水の方へと歩き出した。
 果実を食べ終わったシラが二人の間に挟まれて、にこやかに笑っているのが見える。ヤマトの顔はにやけていて、エレクシアの顔は酷く歪んでいた。

「また二人で喧嘩してるのか?」

 レインはそう言いながら近付くと、ヤマトとエレクシアに一本ずつ串を渡す。そして最後にシラへ渡した。

「サンキュー」「すまない」「ありがとう」と三人それぞれの言葉を聞き、レインは自分の肉を頬張った。
「うん! 美味い!」

 ヤマトはいつものように嬉しそうにかじりつく。

「ほー、なかなか」

 エレクシアもヤマトとの会話でできた眉間のシワを解きながらそう言う。

「ほんとだ。なんだか新しい食感」

 シラの反応にヤマトはニヤニヤと笑った。

「あ、そう言えば……」

 ドラゴンの肉の説明をされては厄介だ。レインはワザとらしく咳払いをし、先ほど買ったものをシラへ渡そうとポケットに手を掛ける。その時だった。

「おい! 天界軍のお出ましだってよ!」

 広場のどこからかそんな声が聞こえてきた。その言葉にレインとヤマトはピクリと反応する。

「遠征から帰ってきたみたいだな」
「遠征って、あの十八番隊と二十四番隊の中隊編成がかい?」
「二十四番隊と言えば、討伐戦の二十四番隊かな?」

 あちこちでそんな声が聞こえ出す。

「このままだとこの道を中隊編成が通るみたいだ。少しずれよう」

 ヤマトは持っていた串の肉を急いで頬張ると、シラを立たせ噴水から離れるように指示をする。

「は、はい」

 シラは突然の騒ぎに不安な表情を見せながら、ヤマトの指示で近くの建物脇へと場所を変えた。レインとエレクシアもそれに続く。

「道を開けろ! 軍が来るぞ!」

 周りの人達がザワザワと大通りの真ん中を開けるように動き出す。パレードのように人々が端へと追いやられ、シラの周りにも人が寄って来た。
 彼女を守るように三人は立ち、辺りを警戒する。

「場所を変えるか?」 

 レインの提案にヤマトは小さく首を振る。

「いや、ここで動いて軍にシラを目撃されるのはちと不味いな。それにシラの歩く道順と帰る時間を逆算すると、そろそろ軍がデモンストレーションを仕掛けてくるだろうし」

 そんな会話をしていると、大通りに地龍に乗った軍人が数人姿を見せた。
 地龍を筆頭に、馬車や軍旗などが列をなして目の前を通り過ぎていく。

「もう少しで二十四番隊だな」

 一行の隣でその光景を見ていた高身長の男性がそう独り言をこぼした。

「何故分かるんですか?」と、シラがその男に質問する。
 独り言に質問された男性は少し驚いたようだったが、シラに分かるように指をさした。
「軍旗のマークで分るのさ。今見えているのは十八番隊。あれ、星のマークが見えるだろう?」
「二十四番隊とは?」

 さらにシラは質問する。

「二十四番隊って言うと三年前の討伐戦だろ? 二十四番隊が悪魔軍をバッサバッサと薙ぎ倒して、ガナイド地区を奪還したんだ」

 男性の言葉にヤマトは「ほほー」と笑った。

「そりゃベルテギウス大佐が指揮をしたんだ。すごい戦果だったらしいぞ」
「ベルテギウス大佐……」

 シラはその名を繰り替えし、少し苦い顔をした。

「そう、この城下町の出身でダスパル元帥の右腕にまでなった偉いお方。俺たちの英雄だよ。今俺達がこうやって生活できているのも二十四番隊のおかげだな」

 男性は嬉しそうに話を進める。
 しかしヤマトの「ふーん」というぶっきらぼうな返事を気味悪がったのか、男性はこの場を離れるように数人を押しやりながら前へと進んでいった。

「本当の英雄は俺達ですよー」

 その背中に向かってヤマトがこぼす。

「ベルテギウス大佐が帰還されたのか」

 エレクシアはそう口にすると、シラはゆっくりと頷いた。

「ベルテギウス大佐は北北東視察部隊の部隊長として遠征に出ていました。とても優秀な方です。ですが……」
「ですが?」と、ヤマトが後半の言葉を聞き返す。
「私は得意ではありません。苦手……です」

 シラは少し困ったような顔をしてヤマトに微笑む。
 ヤマトも「なるほどね」とシラに笑って見せた。

「けど、かなりのヤリ手なんだろ?」
「はい。戦略的な構成は彼が一番でしょう」

 シラは軍のパレードを見ながらヤマトの質問に答える。

「昔の戦争時、『白銀の獅子・オギロッド大佐』の部下として多くの戦乱を渡り歩いたとか。オギロッド大佐が戦死なされてからは、若くしてその跡を継いでいます。今は二十四番隊の指揮官をしています」
「ふーん。オギロッド大佐は士官学校の時に何度か話に出たが、そのあとがまってことね」

 ヤマトは少し背伸びをし、前を見ながらそう言った。
 すると「おお!」「見えた!」と歓声が上がる。

「そろそろ『偽英雄様』のお出ましかな?」

 ヤマトの棘のある言葉を聞き、エレクシアがギロリと彼を睨む。
「なんだよ。事実だろ?」と、ヤマトはいつもと違う冷たい声色で返した。
 そんな二人の会話を聞きながら、レインは突然の寒気を感じ、シラを庇うように一歩前に出る。

「シラ……俺の後ろに」

 大通りを必死に見ていたシラは、そんなレインの行動に肩をびくつかせた。

「レイン?」

 ヤマトの声にレインは右手の人差し指だけを上げ、辺りに気を張る。その動きにヤマトも異変を感じ取り刀の柄に触れた。
 神経を集中させ、周りを窺う。嫌な気の流れ……吐き気がする。

「どうした?」

 エレクシアが口を開いた直後、レインの見つめる先の屋根に人影が見えた。その人影は翼を広げながらゆっくりと軍のパレードの中へと落ちていく。
 そしてそのまま――。

 ドガンッ! という爆発音がその場にけたたましく鳴り響いた。
 人混みの中から沸き起こる爆風と悲鳴。しかしレイン達のいる場所からは、その先がどうなっているのか見えない。
 パチパチと人混みの先から焚き火のような音がする。
 そしてまた同じように屋根から人影が――落ちる。
 先ほどと同じような爆発音が二回。見物客は今までに聞いたことのない爆音に更に悲鳴を上げた。
 その爆発音に興奮した地龍が暴れている音が響く。

「ヤバいぞこれ!」

 ヤマトが小さく吐き捨てた。
 爆発音と悲鳴で人々は混乱し始め、恐怖がその場を支配する。
 辺りは騒然となり、四方八方へと人々が逃げ惑い始めた。

「ここは危険だ! 姫様!」

 エレクシアがシラの腕を掴んだ。
 その時、向かいの屋根に新たな人影が姿を見せる。

「動くな!」

 レインは刀を抜きながら二人の前に立つと、戦闘態勢に入った。
 人影が先ほどと同じように屋根から飛び降り、軍列の中へと落ちる。
 今度は目の前での爆発。地響きと火の粉、爆煙、悲鳴、全てが同時に巻き起こり、周りの人々がその爆煙の中へ消えていく。
 レインはとっさに能力を刀に込め風を作ると、悲鳴を上げうずくまるシラとエレクシアを守った。
 ヤマトも同じように刀を抜き加勢する。
 二人のブーツの先が焦げていくほどの高熱だったが、しばらく経つと爆煙は少しずつ消え辺りが見え始めた。周りにツンと鼻につく人の焼けた匂いが広がる。
 レインとヤマトは刀を振り降ろし、土埃を払いのけながら辺りを見回した。
 そこから見えてきたのは焼け焦げ横たわる人影。あちこち傷だらけになり、うずくまる観客達。地面にうつ伏せて動かなくなった人々が見えた。
 爆風で吹き飛ばされたのだろう。周りの人々が家屋の壁にぶつかり、壁は血を塗りたくったようにドス黒く染まっている。
 そんな光景が目の前に広がるのを見たシラは、手を震えさせながら「あ……」とだけ声を出した。

「おい! 動け! ここから離れるぞ!」

 ヤマトがこの状況が飲み込めないままの二人に声を荒げる。

「シラ! 立て!」

 レインもシラに向かって叫び手を掴むと、無理やり立ち上がらせた。
 シラは体を震わせながらレインの手を強く握る。そして目の前に転がる血だまりを見つめ「う、腕が……」と小さく吐いた。
 足元には誰かの腕が転がっている。その光景を茫然と見ていたシラを守るように、レインは彼女を抱き寄せた。
 ヤマトは放心状態のエレクシアの頬を叩き、「この場から離れるぞ!」と声を掛ける。エレクシアはヤマトの顔を数秒見つめると、瞳に力を取り戻し立ち上がった。そして腰に挿したレイピアを握りしめる。

「レイン、シラを!」

 ヤマトの声にレインは胸の中で震える彼女の手首を掴んだ。
「走れ!」と、ヤマトの発した声を合図に全員が元来た道を走り出す。
 辺りは状況を理解できていない人々と、怪我をして倒れている軍人で溢れている。
 この騒然とした場から一刻も早くシラを安全な場所に避難させなければ。
 ヤマトを筆頭に四人は人混みの中をかき分けるように走り続けた。

「ヤマト! あの臭い」

 レインは前を走るヤマトに叫ぶ。

「ああ、最悪の状況だよ。まさかここまで進歩した爆弾を所持しているとは」

 ヤマトは後ろを振り向くことなく吐いた。
 二人の考えていることは同じだ。先ほどから立ち込める臭い……火薬の臭いだ。
 つまりこの爆煙は……爆弾。

「これはもう大規模な自爆テロだぞ!」

 レインの叫びにヤマトは頷く。

「確かに……。けど、かの有名な二十四番隊だろ? 大通りは彼らに任せよう」
「前ッ!」

 レインの言葉と同時、目の前にまた爆炎が上がる。目の前を阻む爆炎にヤマトは舌打ちすると、左へと進路を変え、路地に逃げ込んだ。
「次が来るぞ!」と、後ろを走るエレクシアが叫ぶ。
 その瞬間、また進行方向にある建物から人影が落ちる。爆発音がけたたましく響き、爆煙が吹き荒れる中で大きな悲鳴が複数上がった。
 迫りくる煙を被らないよう一行は路地をさらに曲がる。

「ヤマト!」

 レインが叫ぶと「分かってる!」と、ヤマトがさらに叫んだ。
 これは誘導だ。自爆テロで進路の妨害をしつつ自分達をどこかに誘導している。
 ヤマトもそれを分かっているようだ。しかし先に進む以外道はない。仕組まれたものと分かりながら、入り組んだ路地を走り続けた。
 途中、今の状況を把握しきれずオドオドと周りを見回している住人とすれ違う。

「逃げろ! 走れ!」

 ヤマトはそれだけ言うと、その住民の横をすり抜け走った。レイン、シラ、エレクシアもその後に続く。
 その間にも大通りの方向から二度ほど爆発音が聞こえた。
 そうしてただひたすら狭い路地を走り抜けた先は、住宅と住宅の間にできた空き地のような空間だった。
 急に開けた空き地に出て、全員がその場で立ち止まる。

「行き止まり……」と、エレクシアがぽつりとこぼした。
「さて……」

 ヤマトは何かを察し、刀を両手で握りしめると、空き地の中央へと歩き出した。

「エレクシア、シラを」

 レインもヤマトに続こうとシラから離れる。すると彼女の手首にはレインの握った掌の後がくっきりと残ってしまっていた。
 エレクシアは頷くと、シラを抱きしめ刀を抜き、辺りを警戒する。
 レインとヤマトが数歩前に出ると、広場の端にある物陰からゆらりと大きな人影が現れた。
 大きな体格に高身長。レインが二週間前に路地裏で見かけた男だ。
 その男はゆっくりとこちらへ歩きながら、腰に差した刀を抜く。

「ガナイド地区の男」

 レインがそう呟くと、ヤマトは姿勢を低くし「お出ましってか」と、戦闘態勢をとった。

「最神。我々の死んでいった仲間の為、ガナイド地区の死者の為にその命貰い受ける!」

 その男は低い声でこちらに殺意を向けた。