俺、何か死んだらしいんですけど……身体は結構ピンピンしてます。


ぼーーっとその光景を眺めた。

 どうやらどこかにねそっべているようだ。大の字になって、それも屋外。そう、空が見える。雲一つない空。風も吹いていない。今日はこんなに穏やかな天気だっただろうか。

 今日は自分が夕飯当番だから早く家に帰らないといけないのになぁ。今日のメニューは鶏肉のソテー。ニンニクソースを添えてと、かぼちゃのスープ。あと両親が好きなオニオンスライスたっぷりのサラダを作ろう。あれ? マカロニ買ってたっけ? そういえば庭に実ったトマトを早く収穫しないと……。早く家に帰らないといけないのに……何やってんだろ。

 けど、どうしてもこの状態が心地よくて起き上がることが出来ない。だってほら、こんなにも空が綺麗で青い……ん? んんんんん!?



「……青く……ない?」



 少年はその言葉をボソリと声に出した。

 そう、確かに空は青くない。赤く、黄色く、白く、たまにピンクで、たまにオレンジ……。

 待て待て待て!!! えっと……整理しよう。

 自分の名前は『三上大一郎』稲穂高校2年生。今日は夏休みが終わって始業式だった。部活の料理研究会も無い事だし、先日本屋で立ち読みした料理を家で試作しようと意気込んで下校した。

 うん。覚えてるぞ。よしよし! 続けよう。

 で……あ! 思い出した!! クラスのアイドルのどかちゃんに「バイバイ、また明日」と声を掛けられた!! そう、今日はツイてる日だったんだ! で、スキップ交じりで校門を抜けた。それで……神社の前に差し掛かって……。

「記憶がない」

 そう言ってもう一言口にする。そんな大一郎の不安をよそに空はオーロラのように色が行き来する。綺麗だなあ……。そんなのんきな気持ちにさせるその虹色の空。

「おい」

 急に声が聞こえる。それは女の子のような。アルトトーンの声。クラスのアイドルのどかちゃんの声はもっとソプラノトーンなんだけどなあ、なんて考えた。今日の「バイバイ、また明日」あの声が忘れられない。

「おい!」

 もう一度声が聞こえる。

 しかし、大一郎はそのままぼーっと空を眺めていた。

 すると大一郎の視界にふわっと人影が見える。そこに現れたのはクラスのアイドルのどかちゃんと同じくらい。いや、それ以上の美少女だった。え? モデルさん? それとも女優? そんなことを何となく考え、大一郎はそのままその美少女の瞳を見た。

 しかし、その少女どうも風変りな格好をしている。緑を基調としたセーラー服に赤のスカーフ。綺麗な黒髪は後ろで三つ編みに括られているが、毛先が赤くメッシュが入っているようだ。それに目はカラーコンタクトか? 真っ赤な瞳をしている。左目は包帯をしていて隠れているではないか。

「起きてんだろ?」と少女は覗き込みながら大一郎の顔を見る。

 そして大一郎の額に何かが当たる。どうやら少女が持っている棒状の何かだ。それが何か気が付くのに少し時間が掛かる。それは……。

「木刀?」

「真剣だ、アホ」

 大一郎の言葉に少女はその棒状の物を上に上げ、そのまま大一郎の額に向かって……。

 ドスン……鈍い音がした。



「いってってってってててててててててててててててええええええええ!!!!!!!」







【このイラストで小説書いてみました企画作品】

 ーー俺、死んだけど元気ですーー






「ええええええええええ!!!!」



 声を上げ飛び起きた大一郎はそのまま額を撫でまわし、その場にもだえ苦しむ。

 そして数分地面にうずくまると、大きく膨らんだタンコブを抑えながら攻撃をしてきた少女を見つめた。

「何するんだよ!!!」

 大一郎の叫びに「っせ~~な~ギャアギャアと。お前が答えないからだろ?」と、声を上げしれっと佇む少女。

 その冷ややかな目に大一郎はギギギ……っと警戒した。

「は? 返事しなかったらそんな攻撃していいのかよ!! 見ろよ!このタンコブ!! めっちゃ膨らんできただろ!!? ああ……マジいてえ……死ぬかと思った」

「死んでるけどな」

「………?」

 少女の冷ややかな返答に大一郎はキョトンとして首を傾げる。

「は?」

「いや、だから。お前はもう死んでるんだって」

「……は??」

「飲み込みおせえなぁ……」

 少女は腰に手を当て大きく溜息を付く。

「大一郎お前、もう死んでんだよ」

「いつ?」

「さっき」

「どこで?」

「登下校中に」

「んんんんんんんん???」

 大一郎は傾げた首を更に角度を付けてねじれた。そして目の前の少女を見つめる。

 そしてある不可思議なものを見つけた。

「あのさ、一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「なんだよ」

「その……君の背中にあるそれ……何?」

 大一郎はよじれた身体のまま少女の後ろを指さす。

 その指さす背中には金色に光る金属。いや、翼? いやいや……機械??

「ああ、これ。いいだろ?先月発売された最新機種だぜ。今予約待ちでさ、私もおととい届いた」

 そう言って少女はニヤニヤと背中のそれを振り向き眺めた。

「えっと……」と大一郎は何かを更に質問しようとする。しかし、何から聞けばいいのかわからず口を紡いだ。

「仕方ねえな。ちゃんと説明してやるよ」

 少女は大一郎の目が点になり今にも瞳が消え入りそうな衝撃な顔をしているのを見て、もう一度溜息を付く。

「私の名前は『ひびき』この世界に彷徨う人間を元の世界に返す役目を持ってる」

 その言葉を話すと突然風の無かったその場の空気が動き出す。

「ま、簡単に言うと、『あの世』と『この世』の間に位置する『名も無き世』の天使だ」

「て……天使?」

「そ、天使」

 響きと名乗った少女の周りに風が吹く。仁王立ちの響きは腕を組み、ニタリと笑った。

「大一郎。お前は死んだ。お前はこの先どうしたい? 『あの世』と『この世』どっちで生きていきたいか、私が選ばせてやるよ」




「…………はい?」




 大一郎の額のタンコブがまた少し大きくなったような……気がした。