俺、何か死んだらしいんですけど……死に方が酷いです(泣)


 大一郎は大きく膨れ上がったタンコブをスリスリと撫でながら、その場に正座させられ目の前にいる美少女響の話を聞いていた。響の黒と赤メッシュの髪が風に流され綺麗だ。顔だけ見れば『天使』である。だけ見れば……。

「で、あるからして……」と言いながら響は何処から登場したのか分からないホワイトボードに指さし棒を当てながら説明する。

「えっと……つまりは俺は『この世』で死んだから『あの世』に向かう為の中途半端な場所にいるって事でしょ?」と、話の腰を折る形で大一郎は響に話を振った。

「中途半端とは失礼だが……まあ正解だ」

「で、君はこの世界の住人なわけ?」

「まあ、そうなるな。お前みたいな変な所からこの世界に入った馬鹿を無事にあの世に送り届けるのが私の仕事だ」

 響は教師役が飽きたのか、指さし棒をペイッと投げてホワイトボードへ寄りかかりながら笑う。

「え? じゃあさ、三途の川ってあるの?」

「ああ、あるけど……」

「うわ! マジで!! 見たいみたい!!」

「あそこ観光名所だからめっちゃ人多いぜ? しかも最近観光客が川にごみを捨てるのが問題になってて汚ねえし、船は人数を多く乗せたいからってフェリー使ってるし」

「え……。なんか、夢壊れたわ」

「だろ?」

 大一郎が小さくなってくタンコブを抑えながら残念そうな声を上げると響も頷いた。

 その頭の遥か上空には羽の生えた魚が空を飛び「ピーピー」と鳴いている。大一郎はそんな空の魚? 鳥? を何とも言えない表情で見つめた。

 辺りを見回す。周りはどうやら砂漠のようだ。けど……砂はピンク色をしている。ピンクと言っても優しいパステルカラーだ。桜でんぷんのような……忘れた初恋の色? って感じだろうか。触ってみる。ほんのり暖かい。これ頭まですっぽり埋まったら砂風呂になるんじゃないだろうか。

 そんなピンク色の砂漠は遥か地平線まで続いている。その地平線の彼方に象がいる。うん。巨大な象。しかも肌は水色で牙の部分から赤い花が咲いている。

 首を振り後ろを見てみる。遥か地平線の彼方に今度はダンゴムシがいる。うん。巨大なダンゴムシ。色はオレンジ。動きが遅くノソノソと移動しているようだ。目は青色をしている。え? あの作品のあの生物の色違いじゃないかって? 馬鹿! そ、そんなわけないだろ? 色違いだなんてポケモンでもあるまいし……。そのダンゴムシの上、虹色の空には風船のような生物が群れを成して飛び去っているのが見える。いろんな色の風船……綺麗だなあ。

「なんちゅー世界観」
 大一郎はボソリと言って、今自分が置かれた状況を確認する。

「あのさ、質問質問!」

「は? 質問は挙手をお願いします」

「まだ授業コント続いてるんだ」

「ほら、手を上げろ」
 響が不機嫌そうに大一郎を睨む。大一郎は仕方がなく「せんせーい!」と手を上げた。

「はい、そこの馬鹿」

「馬鹿は余計だ。えっと……俺ってどうやって死んだわけ?」

「ああ、そこの記憶が欠落してるのか」

 響は少し憐れんだ顔をしながら砂漠にポツンと置かれたホワイトボードの前に立つ。

 すると響の背中に生えている翼が急に光出す。

「えええ!? 光るの? マジで?」

 大一郎は嬉しくなってその翼を正面から見ようと立ち上がった。

「ほら、映るぞ」

 響はそう言ってホワイトボードを指さす。

 正面から見ようとしていた大一郎は「へ?」と間抜けな声を上げながらホワイトボードを見た。

 そこにはいつも自分が通学路として使っている神社が見える。

「えええ?! これ映写機になるのか!?」

「あったりめーよ! なんて言ったって最新機種『7s』だぜ?」

 響は「ふふ~ん」と鼻を伸ばして胸を張る。

「7には無かった機能なんだ。私も昨日説明書を読んで……あ、お前が来たぞ」

「まじで!?」

 2人は翼から映し出された神社のワンカットを眺める。

『ふんふ~~ん。ふふんふ~~~~~~~ん』

 鼻歌が聞こえる。なんとも音程の悪い鼻歌が……聞こえる。この世のものとは言えない。聞き続けると頭痛のするような、そして何か体調を崩して寝込んでしまいそうな。あの有名なオレンジのセーター、ぽっちゃり少年の歌声に似ている。俺は〇〇餓鬼大将……。

「がああああああああああ!!!」

 その瞬間大一郎が大きな声を上げてもだえ出した。

「やめて! やめて! 音声ストップ!! ストップしてえええええええええ!!」

 大一郎がピンクの砂に顔をうずめ叫ぶ。

 しかし彼の悲痛の叫びも虚しく、画面はスキップしながら鼻歌を歌う大一郎が映し出されていた。

『のどかっちゃ~~ん! すってき~~なっ。今日はいいひっだな~~~』

「や~~~~め~~~~て~~~~~~~~~~」

『夕飯は~自信作の~鶏肉のソテー! 俺の得意料理いいいい~』

「うがああああああああ……死ぬう~。恥ずかしさのあまり死ぬぅぅ」

 大一郎の叫びに響は「いや、だから死んでるんだって」と冷ややかな突っ込みを入れた。

「ほら、もうすぐ死ぬぞ」

 そんな響の声にピンクの砂を涙で濡らしていた大一郎は顔を上げる。

 すると……。

「え? バナナの皮?」

「みたいだな」

「は? 何であんなところに?」

「お前が鼻歌歌ってる時に通りすがりの小学生が食べてたバナナの皮を捨ててった」

 すると鼻歌を歌いながら華麗にスキップする大一郎の姿が……。そしてそのまま……そのバナナの皮を踏み滑る。それはそれは華麗な滑りだった。トリプルアクセルなみの。点数を付けたら満点だろう。氷の上では無いのが惜しい。

 そして中肉中背の少年の身体はそのまま目の前にある神社の石畳へ……落ちていった。

「うええええええええ!!?」

 大一郎はホワイトボードへ駆け寄り、画面へ頭を付ける。

「おい馬鹿。映写機の前に立ったら見えね~だろ!」と、響が怒鳴る。

「いやいやいや!!!!! 俺の死に方これ!!!!」

 大一郎はホワイトボードをガクガクと揺らし叫ぶ。

「ハッズ!!! マジ恥ずかしい!! は? ナニコレ!?」

 大一郎は映し出される石畳の上で仰向けに倒れている自分の姿を見つめた。

「おい! 起きろよ俺!! マジでこんな死に方ね~~~よ!!」

 何度もそう叫び、大一郎はホワイトボードを壊す勢いで揺らす。

「ああ。もう、うっせ~な」

 響はそんな彼の姿を見ながらそう言って腰に挿している二本の刀のうちの一本を鞘ごと抜き、そのままホワイトボードに齧りついて叫ぶ大一郎の頭のへ振り下ろした。

 ゴツンという鈍い音と共に「いってええええええ!」と大一郎が叫ぶ。

 その叫びはピンク色の砂漠と虹色の空に響き渡った。