さて、そんなこんなで親友の友代からノートを受け取った私は、なんやかんやと半分ぐらいまでは小説を書き込んでいた。
といっても勉強嫌いな私は文章能力ゼロ! 漢字無し! 字が汚い! というとんでもないダメダメだった為、友代以外には到底見せられるクオリティーではなかった。
ノートの表紙には赤ペンで大きく『極秘!』と書いてあり、そのノートは今でも私の大切な思い出として残してある。
その頃私はポケモン、デジモンにハマっていた。
ポケモンの金銀編でホウオウをゲットするのに夜更かしし、夕方放送のデジモンを録画して見るという日々だ。
私の両親は田舎だからという訳ではないのだろうが「アニメ=(イコール)子供の見るもの」という概念を今でも持ち合わせている。
その為、父のビデオデッキにこそこそとデジモンを録画してはみんなが寝静まった頃に1人で視聴し、すぐに上から野球かサッカーを撮るという思春期の男子か! というようななんとも滑稽な行動を取っていた。
それに影響されるように私の作品もモンスターが登場するようになる。主にドラゴンだった。これは高校生になっても変わず何年も続くことになる。
それと同時進行で初めて買ってもらった漫画『カードキャプターさくら』の影響も大きく受けていた。
魔法少女! カード! 杖! そして演唱! 読めば読むほど私の心は飛び跳ねたものだ。
魔法を使い、モンスターを演唱で召喚するという作品のプロットを作成していく。
そんな中学時代を送った。
楽しいファンタジーの世界に頭まで浸かっている私はもちろん勉強なんてしていない。
受験勉強? するわけないじゃないか!
親に向かって「私は声優になる!」なんて知識もないのに叫ぶ。正に『中二病』を発症していたくらいなのだから。
その頃は今と違ってアニメの知名度も低く、朝やまちゃんがおはスタを始めて数年が経ち、やっと声優という仕事が親世代にも知られるという時代だ。
もちろん親には反対……いや激怒された。
そして2番目の夢である「花屋」になるべく、家から1番近い園芸高校へと進学するのである。
学校に真面目に行き、リーダーシップを発揮して学校行事を引っ張るタイプの私は内申はピカイチだ。勉強以外は。
なので受験は持ち味のコミュニケーションで面接をクリアーし、無事に高校へと進学した。
そんな高校生活が私のアニメオタクに拍車をかけるパラダイスだったと言っても過言ではない。
それは中学校の頃のように早いテンポでの勉強をしなくてよいという事。座った授業が少ないという事。そしてテストがすごく優しかった事。が大きかったのではないだろうか。
気になる人は是非「銀の匙」を読んでもらいたい。畜産科と園芸科という違いはあれど結構あんな感じの学生生活を送っていた。
そんなのんびりライフを手に入れた私の次なる出会いは結構遅く、入学してから約1ヶ月後である。
確か2限目か3限目の休み時間だった。
私は後ろの席の友達に話し掛けようと後ろを向く。
すると、その斜め後ろに授業中でもないのに真剣な面持ちでペンを走らせる人物が見えた。
私は少し席から立つと、その子の手元を覗く。
そこには今では余り使われていないトーンの束と沢山の太さの違う黒ペン。そして見覚えのあるキャラクターのイラストだった。
思わず「ほえ~」と眺める。
イラストを描くのを諦めていた私にとって、とても興味深いものだったからだ。
どうしよう。声掛けようかな……。
そう一瞬躊躇した。手を止めさせるのはどうも忍びない。
しかし、どうしてもその一言を掛けたくて私はその子に声を発した。
「絵、上手だね」
その言葉に集中していたその子は肩を跳ねさせ「うわ!」と声を上げた。
「び! びっくりした!!!!」
「あ、ごめん」
体の小さな彼女はあゆみ。私の今後の創作のパートナーとなる存在だ。
「それってさ『NARUTO』のサクラだよね?」
「うん。知ってるの?」
「読んだことある。最近アニメもしてるよね?」
その言葉にあゆみは「お!」という顔を見せる。
「これ何してるの?」
「文芸部の部誌に載せるの。原稿だよ」
「お~!」
中学校には美術部はあれど文芸部は無かった。
『文芸部』『部誌』『原稿』その響きに私はワクワクした。
「どした~」
「なになに?」
と後ろから声を掛けられる。
そこには眼鏡の2人。
千夏とやちよだった。
3人は中学校が一緒だったらしい。いつも仲良くしていたのを何度も見ていた。
私自身はこの3人とこんなに親しげに話したのは初めてだった。
「絵が上手だな~って見せてもらってたの」
私の言葉に2人ともふむふむと仲間に入る。
「なずなちゃんは漫画とかアニメ見るの?」
成績優秀。冷静沈着なやちよにそう声を掛けられ「ん~」と唸る。
「見てると言えば……見てるかな?」
「例えば?」
「コナンとか、ワンピースとか?」
「「「あ~」」」
3人が同じ反応をする。
「あ、最遊記好きだったよ!」
「「「おおおおお!!」」」
「あと、テニプリとか?」
「「「「おおおおおおおおおおおおお!!!」」」」
3人のテンションが明らかに上がる。
中学校の間、アニメを見て盛り上がるということがなかった私はその反応に少し困った。
「じゃあ今放送してるアニメ何か見てる?」
ムードメイカーで天真爛漫な千夏にそう声を掛けられて私はまた「う~ん」と唸る。
「あんまり……」
そして私は禁断の言葉を吐くのだった。
「3人のおススメってあるの?」
「「「……」」」
3人が顔を合わせる。
「??」
私はその3人の顔を見つめた。
「千夏。例の物を明日持って来てくれ」
「え?ほんとに見せるの?」
「ここまでいろんなのを知ってたら大丈夫だろう」
あゆみ、千夏、やちよが順番に話していく。
「え?何の話?」
私が質問したとの時、チャイムが鳴り響く。
「お~い! 席付け~」
チャイムと共に先生が教室に入ってくる。
その例の物……。
それは今ではなかなかお目にかかれない代物だった。