私の作品が始まる日


3人の読者の誕生。それは私の創作人生を変える日でもありました。

 さて、3人に自分の書いた小説を読んでもらうには大きな問題があった。

 それは以前書いたが、字の汚さだ。

 なに? 女の子は字が可愛くて、読みやすい? 君は何を言っているんだい?そんな女子など世の中の3分の1ほどしか存在していないのだよ!! 私は半分おっさんで出来た女だぞ!?

 何はともあれ、友代に渡して読んでもらっていた小説ノートをこのまま見せるわけにはいかない。

 そう思った私はそれから3日間かけて新しいノートへ書き直すという、血の滲む小さな努力をするのである。

 漢字は友代が赤ペンで書き直してくれている。それを手直しながら書いていく。

 その時に自分はなんて読みにくい文章を書いているのだ、と自覚するのである。

 創作で初めての屈折だった。

 読み直すとは本当に大切な事だ。

 書き直しながら自分はもっと勉強しないといけないと強く思ったのだった。





 そしてノート一冊分を書き直したその次の日。私は行動を開始する。

 新しいノートは水色にしたのを今でも覚えている。

 その時にノートの表紙に書いたのが『BlueSkyの神様へ』

 今リメイクしている作品の名前を決めたのはこの時だ。今から13年前になる。

 主人公の名前も『レイン』ヒロインの名前も『シラ』そのままだ。

 しかし、内容は今よりライトなものだった。

 軍人はあまり出ないし、貴族や種族差別も、反政府軍も、悪魔もいなかった。

 そんな初期設定の作品を携えて行動を起こしたのは移動教室の時。

 私は園芸科に通っていた。その中でも特殊な教室『バイオ実験室』そこでの授業で私は決行する。

 何故かという理由は2つある。1つは教室が一定の温度で保たれているということだ。

 バイオ。それは植物を科学的に生育するものだ。だから植物にとって成長しやすい温度にいつも設定してある。と言うことは夏は涼しく、冬は暖かい。

 その頃はまだ教室に空調が無かった我々学生にとっても、その教室はパラダイスだ。

 その為、日頃はのんびり移動している生徒達もバイオの授業の時は素早く移動し、席に付く。

 2つ目は机の配置だ。

 机は『ロの字』で座るようになっている。その席順が私、あゆみ、千夏、やちよが丁度向かい合わせ、隣合わせになるのだ。

 バイオの授業は3時間、間に10分の休憩があり、いつも4人でアニメの話をしている。

 私はその時を見計らって例のノートを机の上にワザとらしく上げたのだった。

 心臓はバクバクと言っている。

 こんなに緊張するものなのだろうか?

 私はそう思いながらノートをめくり、赤ぺを持つ。

 そして手直ししようと自分の小説を読み始めた。

「なずな、何してるの?」

 最初に気が付いたのは隣の席のやちよだった。

「え? ああ、小説の手直しだよ」

 クールな感じに返事をする私。

 心の中は「キターーーーーーーー!!!!」と叫んでいる。

「へ~なずなが書いてるの?」

「う、うん。そうだよ」

 そう言うと他の2人もその会話が気になるようだ。イラストを描いたりしている手を止める。

「どんな内容?」

「えっと……主人公は人間の頃に交通事故で死んで、天使に生まれ変わった男の子の話で……」

 とストーリーの本筋を話す。

 3人はフムフムと聞いてくれた。

 自分の作品について話すのはどうしてこうもくすぐったいのだろうか……。

 顔が赤くなるのが分かった。

 そしてあらすじを話し終わるとみんな同じことを言うのだった「出来上がったら読ませてね」と……。

 おいおいおいおいおいおいおいおいいいいいいいいい!!!!

 待って!! 読んで!! 読んでくれ!!!!

 いつ終わるか分からないんだ! だから!!!

 と心のなかで叫んだ。

 しかしここでよく思い出してみる。この3人が漫画以外を読んでいるところ……見たとことが無いと。

 しまった!!! この3人小説読まないんだ!!!!!!!

 アニメ、漫画好きが小説も好んで読んでるとは限らない。

 私はそのことをすっかり忘れていたのだ。

 茫然とする私……。

 ここで読者を増やす計画が終わりを告げる……と思いきや。

「ここ、漢字間違ってる」

 そう言って向かいに座っていたあゆみがノートを指さす。

「え? どう書くの?」

 そう言って私はノートと赤ペンをあゆみに渡した。

 あゆみはノートに間違っていた漢字を書き直してくれる。

 そして「ここも」「ここも……」と次々と漢字を直していく。

「あああああああ……」

 ミスの連発の文章を見られて私はさらに絶望する。

 3日間の努力は?? と……。

 絶望に打ちひしがれている時、次の瞬間私にとって今後の創作人生を変える一言をあゆみは口にする。



「読んで手直ししようか?」



 この言葉。この言葉が私の読者第2号の登場だった。

「ほ! ほんと!!!?」

「うん。漢字とか、文法とか直せるところなら直すよ」

「ありがとう!!」

 私は嬉しくなってそのボールペンをあゆみにあげた。

「あ、じゃあ私も!」

「私も読む~」

 隣にいる2人もそう声を出す。

「みんな、ありがとう!」

 私はこのドキドキを忘れない。

 読者が増える喜びとはこんなに素敵な事なんだと忘れない。

 ま、私の場合は手直しをしてもらうというところからだったが……。

 そしてここから3人は私の手書きのノートを回し読みして、手直しをしてくれるようになる。

 ノートが帰ってくるといつも中は赤ペンで真っ赤になっていた。

 泣きそうになった。

 当時の私の文才はノートが赤く染められるほど酷く、誤字脱字は今も昔も変わらない。

 そんな酷い内容なのに、私が書いた作品というだけで3人はノートを受け取ってくれるのであった。

 有難かった。創作を諦めずにやってこれたのもこうやって友人読者の応援があったからだと思う。

 1人でも読者がいるから私は今でも頑張れるんだと思う。

 そしてノート半分に達するころ、私はある提案をする。

「みんな、手直しするペンの色を変えてくれないかな?」と。

 おかげで赤ペンだらけの恐怖のノートではなくなった。

 替わりにノートはカラフルなものになったのだが……。